誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
お茶は閑が淹れてくれた。一切家事はできないと豪語する閑だが、「お茶くらいはなんとか」と、笑って用意してくれたものだ。
茶碗を口に含むと、ふんわりと緑茶の甘みが残る。
「おいしいです」
それは嘘ではない。正直な感想だった。
たかがお茶と思われがちだが、急須でいれるにはそれなりにコツが必要だ。閑がちゃんとお茶を淹れられると思わなかったので、もしかしたら職場で覚えたのかもしれないと、そんなことを思った。
「本当? よかった」
ダイニングテーブルを挟んだ、正面の閑は笑って、目の前のお茶を煽るように、豪快に飲み干す。
そしてどこか強く決意したような表情で、まっすぐに小春を見つめる。
「俺、以前、東京に残るって言えなかった小春ちゃんに、『大事なのは、自分で決めて、行動することだ』なんて煽っておいて……男らしくなかった。ごめん」
「そんな……」
いったい何を言われるのかと焦っていた小春だが、まさか謝られるとは思わなかった。
「閑さんはなにも悪くないです。っていうかあの……私、なぜ謝られるのかもわからないです……」
むしろ謝るなら自分の方だと思っているくらいだ。