誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
「――え?」
聞きなれない単語に、小春は瞬きをする。
(今、養子……って言った?)
けれど閑はそんな反応も織り込み済みらしい。ゆっくりした口調で、説明する。
「特別養子縁組制度は、1987年の民法改正で導入されて、翌年、施行された法律だ。あまり知っている人はいないけど、実の親から籍を抜いて、戸籍上実子になるから、戸籍を見ても、ぱっと見はわからない。でも、民法817条って書いてあるから、それはなんだろうって、興味を持って調べればわかるんだよね……」
そして閑は少し困ったように笑って、またお茶を一口、口に含む。
「でもまぁ、その後、俺が養子だって気づいたことに、まず兄貴たちが気が付いて、その後、家族会議が行われて……そのあとも、普通に家族を続けているんだけど。それでちょっと自分としては納得したんだ。神尾家の誰にも全然似てないのも、末っ子の俺が、やたら可愛がられているのも……血が繋がってなかっただからだって」
「――それは」
何も知らない自分が、神尾家の中のことを口にするのはおかしいかもしれない。
けれど今、閑が口にした言葉は、ひっかかった。
「あの、閑さん。血が繋がってないからだなんて……普通に、閑さんが、可愛いからじゃないんですか?」