誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
「どうして、待たないといけないんですか?」
涙をこらえようとしたら、少し声が震えた。
その女の子がどんな立場であれ、閑には自分に説明する責任などないではないか。
「どうしてって……聞いてほしいからだよ」
自分はこの場でひっくり返って泣きたいくらいなのに、閑はひどく落ち着いていて、優しくて――。
彼にそんなつもりはないとしても、まるで子供に言い聞かせているかのようで、一方的に傷ついている自分が、ひどくみじめな気分になった。
「そんなの閑さんの勝手じゃないですか! 今まで秘密にしてたくせに!」
そんな彼を、勝手に好きになったのは自分なのに――。
「っていうか、その女の子がどこの誰だって、私には関係ないです!」
自分が口にしているのは、ただのやつ当たりだ。わかっている。
けれど、自分ではない女の子が、この部屋にいて、当然のように閑の部屋をきれいにしていたのだと思うと、冷静になれなかった。
身をひるがえすと同時に、小春がテーブルより離れるよりもずっと早く、閑が立ちあがり、小春の手首をつかんでいた。
「はっ……離してっ!」
「――」
つかまれた右手を引くが、ビクともしない。