誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

「どうして、待たないといけないんですか?」

 涙をこらえようとしたら、少し声が震えた。

 その女の子がどんな立場であれ、閑には自分に説明する責任などないではないか。

「どうしてって……聞いてほしいからだよ」

 自分はこの場でひっくり返って泣きたいくらいなのに、閑はひどく落ち着いていて、優しくて――。
 彼にそんなつもりはないとしても、まるで子供に言い聞かせているかのようで、一方的に傷ついている自分が、ひどくみじめな気分になった。

「そんなの閑さんの勝手じゃないですか! 今まで秘密にしてたくせに!」

 そんな彼を、勝手に好きになったのは自分なのに――。

「っていうか、その女の子がどこの誰だって、私には関係ないです!」

 自分が口にしているのは、ただのやつ当たりだ。わかっている。
 けれど、自分ではない女の子が、この部屋にいて、当然のように閑の部屋をきれいにしていたのだと思うと、冷静になれなかった。

 身をひるがえすと同時に、小春がテーブルより離れるよりもずっと早く、閑が立ちあがり、小春の手首をつかんでいた。

「はっ……離してっ!」
「――」

 つかまれた右手を引くが、ビクともしない。

< 114 / 310 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop