誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
力を込めてさらに動かそうとしたが、閑は無言で小春の手首をつかんだまま、立ち尽くしている。
まるで彼が、知らない人に見えた。
小春の知っている閑は、いつだって優しくて……甘い意地悪をすることはあるけれど、こんな風に無言で、小春の腕をつかんで、自由を奪ったりしない。
(なんで……なんでなの!?)
小春はギュッと目を閉じて、うつむいた。
全身がブルブルと震え出して、止まらなかった。
「――元依頼人なんだ」
ぽつりと、頭上から声がした。
「日本司法支援センター経由の……いわゆる法テラスの無料相談で、来た子で。十六から夜の世界で働いてて、トラブルに巻き込まれて、にっちもさっちもいかなくなった時に、たまたま法テラスのことを知ったんだって。詳しいことは話せない。俺も、若かったし、法テラスはボランティアみたいなものだってわかってたけど、寝食を忘れるくらい、死ぬ気で頑張って、結果、依頼人の望む形で、裁判に勝つことが出来たんだ。依頼人はひどく感謝してくれて、たまに俺の部屋にマンションのコンシェルジュとやってきて、コンシェルジュが見ている前で、さっと掃除をして帰っていく……鍵を渡してるわけじゃない」