誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
(依頼人……?)
驚いて、小春は息が止まりそうになった。
「――」
閑は言葉を続ける。
「最初の頃はね、そんなことをしなくてもいいと何度も言ったよ。でも、彼女は納得しない。恩返しをさせてくれと、やって来る。自分が先生にできるのはこれくらいだからと……。彼女は望まぬ妊娠をして、子供を産んだ人だ。新しい昼の仕事を見つけたとはいえ、不安だったんだろう。これも、彼女にとって、社会復帰の一部みたいなものなんだと気づいて……だったら飽きるまで、好きにさせようと思った」
そして閑は、小春をつかんでいた手を離す。
「俺の家族のこと、ここに来ていた依頼人のこと……。俺が弁護士を続ける上で、どっちも大事なことだったから。どうしても君に、話したかったんだ」
その声は淡々としていて。むしろ、荒れ狂う嵐のような、感情の揺らぎを必死で押さえているようにも聞こえて――。
「こんなこと、君には関係ないのに、無理に聞かせてごめん。おやすみ」
閑はそのまま、立ち尽くす小春を置いて、ダイニングを出て行く。
パタンとダイニングのドアが閉まる音がしたが、小春は身動き一つとれなかった。