誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
「気を使わせてる……」
小春は悲しくなった。
昨日あんなことがあったのに、いつも通りで、そして昨晩のことにひとことも触れていないのは、閑が自分に気を使っているからだ。
朝食を食べたかったというのも、丸きり嘘とは思わないが、小春のために言葉を選んでくれただけだろうと、思う。
(閑さんて、本当にどんな時も、優しくて……怒ったりしないんだな……なんだか、寂しいな……。いや、私だから、折れてくれてるのかな……)
自分達は恋人同士でもなんでもない。喧嘩なんてしないに越したことはない。
閑が【何事もなかったかのように振舞ってくれる】その気遣いに、乗っかってしまえば、穏やかに時間は過ぎ去って、楽になれるのだろう。
それでも小春は、閑の軋轢をうまないように立ち回る大人の態度が、寂しいと感じていた。
(私、ほんと勝手だな……)
そもそも、体を重ねたあの日のことを、【全部忘れてほしい】といったのは、自分ではないか。
別に好きでもないのに寝てしまったと、閑に言われるのが嫌で、先回りして、痛いことから逃げたのだ。