誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 その日の夕方六時前、夕食の準備をしているところに、閑から連絡があった。

【数日帰れそうにない。ギリギリにごめんね】

 電話ではなく、帰れない旨を伝えるだけの、シンプルなメッセージ内容だったので、小春も【わかりました。お疲れ様です】とだけ返事をしたのだが、たったそれだけのことで、全身から、力が抜けた。

(ハードなんだなぁ……)

 槇法律事務所の依頼人は日本中にいて、閑が常日頃、日本中を飛び回っていることは知っていたが、その仕事ぶりは見ているだけで、心配になってくる。夜中まで仕事を持ち帰っていた時は、そこまでして働かなくてもと思ったのも事実だ。

 だが、閑の仕事への向き合い方は、小春が今まで自分の中で想像してきたような【仕事】とはまったく違っている。
 それはおそらく【生き方】なのだ。
 自分が口を出せる領域ではない。

(っていうか、私に何かを言う権利なんてないわけだし……)

 卑屈になっているわけではなく、真剣にそう思う。
 
 小春は小さい頃から、他人との距離をすごく推し量ってしまう。自分から距離を詰めることがなかなか出来ない。

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