誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
ひとり娘で、なおかつ両親が多忙で、いつもひとりで過ごしてきたからだろう。中本のひとり娘の希美や、虎太郎のように、向こうからグイグイと近づいてくれて、なにかと構ってくれる存在がいたから、なんとかこの年まで生きてこられたような気がする。
だがそれでは駄目なのだ。
(思ったことを口にしなよと、閑さんは言った。だけど、本当は口にしなくても、自分の意志で決めて、行動することが大事なんだとも言ってくれた。本当にそうだよね……)
この年になって気づくことが多すぎて情けないが、それでも知らないよりずっといい。遅くても、少しでも成長したのだと思えたら、それは間違いなく自分の糧になっているはずだ。
負け惜しみでもなく、本当にそう思う。
とりあえず閑が帰ってきたら中本食堂の二階に戻るつもりだが、自分が持ってきた荷物はそれほど多くない。宅配便で段ボールをいくつか送るだけで済む。
「ごはんはもう適当でいいか……とりあえず片付けしよう……」
小春はふうっとため息をつくと、自分に与えられた部屋に戻っていった。