誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

「――そうか。わかった」

 そして虎太郎もあっさりとうなずくと、さっと椅子から立ち上がり、カウンターに置きっぱなしのライダースジャケットを手に取って、店の出入り口へと向かっていくではないか。

「お、お兄ちゃん……」

 ぽかんと口を開けて、その場に立ち尽くす小春を、虎太郎は肩越しに振り返って、ニヤリと笑った。

「まぁ、伊達に十年、お兄ちゃんしてないからな」

 閑を好きだとバレている。
 どうやら小春の気持ちなど、お見通しということらしい。

「それと、神尾さん。小春は誰とも付き合ったことがねぇから。そこんとこよろしく。モテねぇわけじゃないんだけどな……俺みたいな血気盛んなイイ男が、側で見張ってたからだろうな。アハハ」
「はい……それは……えっ?」

 それまでどこか緊張した表情を浮かべていた閑が、一瞬虚を突かれたような表情になる。
 そして閑が、そのまま小春に真顔で視線を向ける。

(どうしてそんな目で私を見るの……?)

 まるで信じられないものを見ているような、その閑の目線の意味を考えて。

「あっ……」

 小春はビクッと大きく体を震わせていた。

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