誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
慌てて虎太郎を追いかけようとしたのだが、立ち尽くして微動だにしなかった閑は、突然ガシッと小春の腕をつかんで、少し強引に引き寄せる。
「悪いけど、今日は逃がさないから」
「っ……」
その目はすごく真剣で、小春は息が止まりそうになる。
「は、はい……」
小春は、しゅんとうなだれた。
(ああ……終わった……嫌われた……軽蔑された……)
嫌われなければいい、好かれなくてもいい、ただ閑のそばにいられたら、思い出が作れたらそれでいい――。
そうやってずっと、相手の存在を無視してきた自分だ。
だから今、その報いを受けなければならないのだ。
小春は泣きそうになるのを必死にこらえて、顔を上げた。
「――虎太郎さんって、本当にお兄ちゃんみたいに思ってるだけ?」
一瞬、なにを言われたかわからなかった。
「……はい」
なので返事が遅れた。