誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
小春としては、それは本心だったし、閑を安心させるつもりで言ったのだが――。
「小春……」
閑はぎゅっと小春の手を握り、それからゆっくりと顔を近づけ、額をこつんと当てたのだった。
「どうしてもなにも……君は本当に魅力的だよ」
「いやいや、そんな」
小春は一瞬ドキッとしながらも、ごまかすように苦笑した。
自分にそんな価値があるとはとても思えない。
卑下しているわけでもなく、特別な能力もない自分に、いったいどんな価値があるのかと思ってしまう。
(だって、私の周りは、すごい人ばっかりだもん……)
周囲の環境から、そう思ってしまうのだ。
「うちのお父さんはプロの料理人で……その腕で、店まで持っちゃうし。大将もそうだし。キミちゃんだって学生の頃から英語ペラペラで、そのまま外国で仕事しちゃうくらい優秀で……虎太郎お兄ちゃんだって、料理を始めたのは大人になってからなのに、今はプロだし。そもそも、閑さんだって、弁護士で、とても人の役に立つ仕事をしてて……でも、私はなにもできないし」