誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 周りが自分にない能力を持っていて、けれど自分はそうではない。

 勉強だって必死にやったけれど、人並み以上の結果は出せず、料理だってプロになれるほどのセンスはなかった。
 自分は、なにをしても十人並みなのだ。

 成人するころまで、そんな自分に劣等感を抱いていたのは事実だった。

 今はもうそれほどではないが、小春という人間の根幹といえるべき悩みのひとつなのだ。

 だが閑は、

「そういうことじゃないよ」

 と、優しい声で、小春をたしなめるようにささやいた。

「特別な能力があろうがなかろうが、人はみんな平等で、生きているだけで価値があるけれど……小春はいつもニコニコしてるし、機嫌がよさそうでいいよ」
「えっ?」
「自分で自分の機嫌がとれるって、なかなかできないことなんだよ」

 そして閑は、じっと小春の目をのぞきこむ。

「それに、俺が壊滅的に下手で苦手な、炊事、洗濯、掃除、なんでもできるだろう。しかもただできるだけじゃない。それを毎日、ルーティーンとしてこなせるなんて、すごいとしか言いようがない。尊敬する」


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