誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
「そんな……」
まさかここまで不相応にも感じる言葉をもらえると思っていなかった小春は、驚きながら、うつむく。
「だって、俺は動くたびに、ものは散らかるし、壊れるし。食べ物はいつのまにか冷蔵庫の中で溶けるし」
「とっ……溶ける?」
ギョッとすると、閑は至極まじめくさった顔で、うなずいた。
「小春ちゃんは知らないと思うけど、液体になるんだよ。野菜とかは特に」
「……」
それを聞いて、小春は、冷蔵庫で液体になる野菜を想像してしまった。
野菜が溶ける。固形が液体になる。
なんと恐ろしい状況だろうか。
(こ……怖い……!)
小春の顔が、ひきつった。
「あ、引かないで」
そこで閑は慌てたように首を振ると、コホンと咳払いをした。
「だからなにもできないなんて、勘違いだよ。基本的にただ生きてるだけで価値があるうえに、真面目で、しっかり者で、素直で、働き者で、家事全般、俺がまったくできないことができる。おまけにこんなにかわいいなんて……言うことないだろ。俺が君を好きになるのは当然だよ。不思議なことなんてなにもない」