誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
俺の部屋に来る?

 木枯らしが身に染みる十一月、晩秋。
 デニムに、薄手のピンクのセーター姿の増井小春(ますいこはる)は、がらりと食堂の戸を開けた瞬間、ブルッと身震いしていた。

 まだお昼の十一時半だ。背中の真ん中ほどの髪をひとつにまとめているので、出ている首筋に、寒さが身に染みる。

「う~っ、急に寒くなったみたい……」

 独り言を言いながら、営業中の木札をかけると同時に、「こんにちは」と、背後から声がした。

(この声は――!)

「いらっしゃいませ!」

 小春が返事をしながら振り返るとそこに、上品なネイビーブルーの三つ揃えを着た長身の男が立っていた。

「やぁ、小春ちゃん。元気してた?」

 少しくせのある茶色の髪に、くっきりとした二重瞼の切れ長の目。しっかりした鼻筋と、微笑みを浮かべた上品な唇。甘さと精悍さがちょうどいいバランスで同居した、かなりの美男子だ。

 スーツの上に、薄手の黒いコートを羽織った彼は、手に黄色の紙袋を持っていた。上等なスーツやコートには少し不似合いだが、柔らかい笑顔を浮かべた彼は、いつもと変わらない。

「お久しぶりです、神尾さん!」

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