誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
「ええ、そうよ」
美保はどこか懐かしむような顔になる。
「昔、離婚で、小春をひどく傷つけたからって、すごく気にしてたみたい」
「……そうですか」
父は今も昔も、言葉数が多い方ではない。
母が出て行ったあとも、すでに祖父母は亡くなっているはずの故郷に帰ろうと言われたときも、過剰な説明はなかった。だが環境を変えるというのは、小春のためを思う、父なりの行動だったのかもしれない。
今さらだが、美保の言葉でそのことに思い至り、なんだか不思議な気分になった。
「でも……そんなの初めて聞きました……。私のためなら、どうしてそれ、私に言わないんですかね」
「そうなのよ。当事者には言わないのよね。今回のこともしかり」
美保は頬杖をついて、ふうと息を吐く。
「すべてをさらけ出す必要はないけれど、夫婦なんだから、大事なことは話してほしいわ。それができないなら、今後もやっていくのは難しいわよね」
「……そうですね。そのことに気付いてほしいですけど」
小春もあいづちを打ちながら、カフェオレをごくりと飲み干した。