誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 心細いが、これは今まで甘えて、楽をしてきたことの清算だと思うしかない。

「修行よね、修行……」

 小春はブツブツとそんなことを口走りながら店を出て、連泊予定のホテルへと戻っていったのだが――。

「あ、お帰り」
「――へっ?」

 ホテルのエントランスに一歩入ったところで、小春は棒立ちになった。

 フロント前のロビーのソファーで、デニムに色鮮やかなロイヤルブルーのセーターを着た閑が、新聞を読んでいる――幻覚が見える。

 彼のことが大好きすぎて、脳が誤作動を起こしているようだ。

「大変……すごく疲れてる……」

 小春が手の甲でゴシゴシとこすると、

「えっ、まさかの幻覚扱いなわけ?」

 幻の閑が苦笑しながら新聞を折り、それをテーブルの上に置いて立ち上がった。

 くっくりした二重の美しい瞳に、甘く精悍な顔立ち。見上げるほどの長身はたくましく、シンプルなカジュアルウェアがとても似合っている。

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