誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
そして黎子は、美しくリップを塗った唇を一文字に引き結んだ。
そう、ある日、日ごろから会いたいと思っていた気持ちをどうしても止められなくなった黎子は、勢いで、かつての故郷で夫の名前を探し、『プリマヴェーラ』を探し当てたのだ。
このご時世、スマホである程度のキーワードで検索すれば、レストランなどすぐに見つかる。
しかも『プリマヴェーラ』は、佑二が基本的にひとりでやっている店で、増井佑二と検索すれば、地元の新聞で受けたインタビュー記事だって拾えるのだ。
そう考えると、佑二と連絡を取ることなど、簡単だったに違いない。
「――まぁ、店に電話を貰って、とったのは俺だ。驚いたさ。十年間連絡もなかったしな」
それまで黙って話を聞いていた佑二は、体の前で組んでいた腕をほどき、指で目頭をぐっとつまみながら、目を閉じる。
「小春に連絡とらないかわりに、あの子の成長した写真を見せてもらいたい、今どこでなにをしているのか、元気でやっているのか、教えられる範囲でいいからと言われて……何度か、会った」
その瞬間、小春の中で、なにかがプチッと切れた音がした。
「なんなの、ふたりして勝手に!」