誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

(だけど、変わっていないこともあるはずだわ……)

 脳裏に在りし日の母が浮かぶ。

 不器用な自分のことだから、時間はかかるかもしれないが、それは少しずつ、手探りで理解していけばいいと思う。
 口には出さないが、母から向けられるその眼差しは、娘の成長を喜んでくれているような気配があり、なんとなく『プリマヴェーラ』があたたかい空気になっていく。

 小春はフワフワした気持ちで、「以上です」と言い、またカウンター席に戻って、閑の隣に座ったのだが。

「――お前の気持ちはわかった。だが、小春ちょっと待ちなさい」

 佑二がおそるおそる顔をあげ、小春の隣に座っている閑を見て、目を細めた。

「その……隣の男性は……誰なんだ」
「――えっ?」

 言われて小春は、ハッとした。

 そういえば、勢いでレストランに入ってしまったため、そういえば閑を紹介していなかった。

 小春は「ごめんなさい、紹介するね!」と、閑の腕をつかんで立ち上がった。

「神尾閑さん。私の好きな人。ちょっと前から一緒に住んでるの。中本のおじさんもお墨付きだから安心して」
「えっ!!!!」

 その瞬間、佑二の目が大きく見開かれる。
 椅子から腰を上げ、固まってしまった。

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