誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
黎子と美保は、さもありなんというふうにうなずいているが、佑二はまったく想像していなかったらしい。
「だから食堂が閉まっても、東京に残るつもり」
「おまっ……ううっ……」
佑二は胸のあたりを押さえながら、テーブルに手をついた。
今日一番ショックを受けているように見えなくもないが、小春としては閑の紹介と、帰らないという報告までいっぺんに住んで、よかったと思うくらいだ。
「ったく……君って子は」
隣でくすくすと小さい声で、閑が笑う。
「閑さん?」
どうして笑われるのかわからない。首をかしげる小春に向かって、
「うん、いや……。俺は、そんな君が大好きだよ。真っ直ぐで強い」
閑はふわっと花が開くように笑い、バッグから名刺入れを取り出して、落ち込む佑二のもとへと近づいていく。
「ご挨拶が遅れました。神尾閑と申します」
佑二は、まだショックが抜けないようだ。
「どうも」と言いながら軽く頭を下げたはいいが、閑の話を聞くことを完全に放棄し、代わりに美保が、「まぁ……!」とはしゃいだように名刺を受け取っている。
おそらく閑は如才なく、小春の両親に挨拶を済ませるし、最終的には、両親も閑を好きになるだろう。
(『雨降って地固まる』って、こういうことかも……)
ふうっと安堵のため息をつきながら、小春はなんとなく、窓の外の美しい夜空を、見つめていた。