誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
「これは大繁盛だなぁ」
「はい、おかげさまで。相席でもいいですか?」
「もちろんだよ」
槇は笑ってうなずき、それから閑を振り返る。
「お前なに食う?」
「んー、やっぱ蕎麦ですかね……」
そう答える閑は、フニャフニャして眠そうだ。髪をかき回しながら槇と詰めてもらったテーブル席に座り、ふわわ、と大きなあくびをした。
昨晩も、閑は仕事を持ち帰って、夜遅くまで起きていたようだ。閑はそんなことは言わないが、クリスマス前後に徳島に来たことで、仕事をため込んでしまっていたらしい。
小春は先に眠ってと言われたので、素直にそれに従っていたが、閑はきっと疲れがたまっているのだろう。
(お正月はゆっくり寝かせてあげたいな……)
小春はお冷を二人の前に並べながら、ぺこりと頭を下げる。
「あの、このお店のこと含めて、おふたりには大変お世話になりました」
「君もがんばったな」
槇はクシャッとした笑顔になって、それからまた、眠そうにあくびをしている閑に視線を向ける。
「まぁ、あれだよ。こいつのことよろしく頼むな」
「えっ、あっ、はい……」
改まって言われると恥ずかしくてたまらないが、小春は小さくうなずいて、調理場へと戻る。
こうやって、閑との関係が周囲に当たり前のように馴染んでいく過程が、面映ゆくもあった。