誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 待ち望んでいた彼の来訪に、小春は嬉しくなって、少し跳ねるように名前を呼んでいた。

 彼の名は神尾閑(かみおしずか)。小春の五つ年上の二十九歳で、弁護士だ。【なかもと食堂】の常連で、ここから歩いて五分の法律事務所で、働いている。

 少し近づきがたいレベルの、華やかな容姿をしているが、本人はかなり気さくで、この町の商店街のご老人方からは、【下町のプリンス】と呼ばれて、大人気だった。

(ほんと、神尾さんが来てくれるの、久しぶりだから嬉しいな)

 小春はひそかにこの男に憧れていた。
 いや、どんな女の子だって、彼と話してみれば、多かれ少なかれ、好意をもつに違いない。

 神尾閑は、いつでも優しくユーモアがあり、誰に対しても穏やかに接して、決して偉ぶることはない。

 生まれてこの方ずっと平凡で、なんら突出した魅力のない自分からしたら、彼は雲の上の人だ。けれど、心の中でひそかに憧れの気持ちを抱くくらいなら、迷惑をかけることはないだろうと、小春は淡い気持ちを大事に胸に仕舞っている。

「いま、ちょうど開いたところですよ」

 小春は閑を食堂の中に招き入れる。

「よかった。やっぱりここのメシ食わないと、調子が出ないんだ」

 閑はにっこりと微笑んで、少し頭を下げながら、食堂の中へと足を踏み入れた。

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