誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
(こういう景色、好きだなぁ……)
小春はほのぼのした気持ちになりながら、忙しそうに働く商店街の人たちや、買い物にいそしむ人たちを眺める。
十二月に入り、少しずつ食堂の整理は続いている。営業も同時進行ではあるが、大晦日に閉店するという大将の目標は達成できそうだった。
「ただいま~」
がらりと店の戸を開けて帰ると、大将が大鍋におでんを煮込んでいた。
「おじさん、それ誰かの注文?」
毎年、冬の時期に大量に作る大将のおでんは最高においしく、商店街でも大人気なのだ。今はランチしか提供していないので、おそらく注文だろうと思ったのだが、
「おう、小春ちゃん。ちょうどよかった。これ、あとでプリンスのところに持って行ってくれよ」
と、軽快な調子で言われてしまった。
プリンスとはもちろん神尾のことだが、小春は首をかしげる。
「持っていくって、事務所に?」
「この一週間、メシも食いに来ねえだろ? 毎晩遅くまで明かりがついてるみてぇだしな。出張だとは聞いてねぇし、心配だから、これ食べさせてやってくれ」
「――うん。わかった」
小春はこくりと、うなずいた。
師が走ると書いて師走と読むくらいだ。弁護士の閑も例外ではなく、目が回る忙しさらしい。
(確かに、同居しようってなってから、顔を見たのは数回だけだわ……)