誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 ほんの数週間前の出来事なのに、なんだか遠い昔のような気がする。
 貰った野菜や肉を冷蔵庫にしまいながら、明日の仕込みの手伝いをする。
 その後、夜の八時を回ったころ、出来上がったおでんを保存容器につめ、歩いて数分の雑居ビルにある槇法律事務所へと向かうことにした。



 槇法律事務所は、下町情緒あふれる風景と、近代化が進んだ建物の隙間に建っている、五階建てのアールデコ風のビルの二階にある。階段をのぼったつきあたり、『槇法律事務所』と書かれたドアを開けると、L字型のカウンターがあり、デスクが六つ並んでいる。

 小春も過去何度か、ランチの出前でここに来たことがある。
 だが昼間の景色と、夜の景色はまるで印象が違う。

「こんばんは」

 部屋の中はこうこうと明かりがついているが、なぜかデスクには人の気配がない。
 遅いので、事務員さんたちは帰ったのだろう。それでも神尾はいるはずだ。

「あの~……?」

 遠慮しながら、部屋の奥を覗き込んで、ハッとした。

 デスクの横に置いてあるソファーに、テーブルをはさんでふたりの男が大の字になって伸びているのだ。

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