誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
「おおっ、下町のプリンス、久しぶりに見たぞ、どこ行ってたんだよ~!」
カウンターの中で忙しそうにフライを揚げていた大将が、入ってきた閑を見て、パッと笑顔になった。
閑はこの商店街のみんなにとって、大事な仲間のような存在だった。誰だって彼に一度は相談に乗ってもらったことがある。
「どこ行ってたって大将、俺、出張前に、ここ寄っただろ。たった十日前のことだよ。もう忘れた? はい、これお土産の温泉まんじゅう」
閑は苦笑しながら、持っていたビニール袋をカウンターの上に置く。
「おう、ありがとな~。小春ちゃん、あとで食べような~」
「はーい、と言いたいところですけど、大将、お医者さんに甘いものの食べ過ぎはダメだって、注意されてませんでした?」
「うっ……そうだったっけな?」
「そうです。それに大将、昼も夜も働いて、あまり休まないし……心配です」
このなかもと食堂は、昼夜と営業していて、商売繁盛は結構なのだが、六十代後半の大将の体が心配だった。休めといっても、なんだかんだと理由をつけて、なかなか休まないのだ。