誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
首を伸ばしてみれば、ネイビーブルーのスーツ姿の閑が、床に這いつくばっていた。どうやらソファーから落ちたようだ。
「あ……あの……大丈夫ですか……?」
小春がおそるおそる問いかけると、少しぼうっとした顔の閑が顔をあげ、小春を見て、目を大きく見開いた。
「あれ、小春ちゃん……?」
「あの、すみません。これ、差し入れを持ってきて、帰るところだったんですけど……悲鳴を聞いて、驚いてしまって……」
「ああ……悲鳴……っていうか、師匠がうなされたんだな」
閑はうんうんとうなずいて、膝のあたりを手で払いながら、ゆっくり立ち上がった。
(うなされた……?)
そうさらっと流していい話ではなさそうだが、閑は、
「師匠、師匠!」
と、豪快に彼の肩のあたりをゆさぶった。
「ん……?」
「起きてくださいっ!」
「んあ~……」
そこでようやく、もうひとりの男が、上半身を起こし、ソファーに座りなおす。
「いつ寝たんだ、俺たち……?」
「黒坪さんたちが帰った記憶があるので、五時以降ですかね」
閑があっけらかんとした態度で答える。
黒坪さんというのは、この事務所の事務員で、みんなのお母さんといった感じの、五十代の頼りがいのある女性だ。