誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
閑がゴニョゴニョと言いよどむと、槇は「へぇ~」とまたニヤリと悪い顔になる。
「まぁ、双方の同意があるっていうんなら、いいんだけどな~」
昨晩と同じ、含みのある言葉だ。
「からかわないでもらっていいですか」
若干強い口調になったのは、図星だからだ。
実際、まさに、槇の危惧したとおりになったのだから。
体を重ねる前に、ああすればよかった、こうするべきだった――。
今更だが、思いだすだけで、胸の奥がグッと苦しくなる。後悔と自責の念で、つぶれてしまいそうだが、自分にそんな権利がないことは、重々承知している。
いったいどうしたら小春の信頼を取り戻せるのか、閑は、そのことで頭がいっぱいなのだ。
「あらあら……神尾先生ったら……なにがあったか知らないですけど、そんな子供みたいに拗ねられて……プククッ……」
さらに、入り口に一番近いデスクに座っている、事務員の黒坪まで、肩を震わせて笑うのを見て、閑は一気に力が抜けた。そもそも、このふたりを相手にして、業務時間外の、素の自分が勝てるわけがない。
人生の先輩として、ふたりには到底及ばない。