誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
「よし、じゃあ行ってきます。たぶん帰りは遅いと思うから、気にせず帰っていいからね。一緒に住もうと言っておいてなんだけど、そう簡単に片付かないだろうし」
閑は爽やかに笑ってそういうと、そのまま玄関に向かっていく。
「あっ……」
小春は持っていたはたきをいったん床に置いて、彼の背中を追いかけた。
「神尾さん、行ってらっしゃい。お気をつけて」
ごく普通の挨拶をしたつもりだが、玄関で靴を履いていた神尾が、驚いたような表情で、振り返る。
「今の」
「えっ?」
「もう一回、言って。めちゃくちゃときめいたから」
「えええっ!?」
思わず閑の言葉に、小春は顔に熱が集まる。
熱い。間違いなく顔が、真っ赤になっていることだろう。
「まぁ、贅沢言うなら、神尾さんじゃなくて、名前で呼ばれたいんだけど」
そう言いながら、靴を履いた閑は玄関で小春の顔を覗き込んできた。
「そもそも一緒に住むのに、名字はなくない?」
「そんなこと言って……もうっ……」
なぜこの人は朝からそんなことを言ってからかうのか、心臓に悪すぎる。
小春はむくれたが、閑は引き下がらない。