雲の上には
親指
毎日、同じような日々を過ごしていた。起きて、支度をし、学校へ向かう。たわいもない友達との会話に笑顔をむけて、そして一日が過ぎる。
ただ、一つだけ、私には儀式がある。誰にも言えない。たった一つの儀式。それを終えなければ、私の一日は終わらないのだ。

私の儀式、それはリストカットである。手首は切らない。誰かに気付かれたらたまったもんじゃない。これは私だけの秘密なのだ。
布団に寝転がり、天井を見上げる。私のうちは古い民家で、天井の木目をじっと眺めながら、また、私の妄想が始まる。
誰かが私に声をかける。「時間だよ…」
私はその、誰かわからない声の主に軽く返事をする。そして、机の一番上の引き出し、鍵つきのそこからカミソリを取り出す。
左手の内側、半袖を着てもみえない脇近辺にカミソリをあて、すーっと横に一本。不思議と痛みはない。流れ出る血液をじっと見つめる。
赤い。私には真っ赤な血が流れてる。その儀式を終え、やっと私の一日が終わる。
私は生きたいのだ。生きるために腕を切る。誰が理解できるであろうか。
翌朝、何事もなかったようにまた一日が始まる。制服に着替え、ハイソックスをはく。
(靴下、穴が空いてる…)
親指が靴下の先から顔を出していた。なんだか私は愛おしく思え、はきかえることもなく、そのまま学校へとむかった。
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