雲の上には
朝。
姉から話しを聞いた母が、眠ってる私の部屋に来た。そして一言。すごく落ち着いた声でこう言った。
「今回の事は忘れよう…。」
「お母さん、なんでよ!?」
姉が追いかけてきて叫んだ。
「何もされてない。大丈夫、何も起きてないよ。」
母は続けた。
「いくら未成年だからといって、名前を伏せてもらったとしても、警察沙汰になったら、ゆきがここに、この町にいられなくなってしまう。」
母が言うには、田舎町だからこそ、噂が噂を呼び、被害者であるはずの私まで白い目で見られるようになってしまうとのことだった。
「納得行かない!」
姉が声をあらげた。私は自分に今起きてる事がなんだか夢のように感じて、ぽかんとしていた。
母は私を強く抱きしめ、
「ごめんね」
といい泣いた。また、私は家族を悲しませてしまっている…。六畳の私の部屋で、大切な家族が二人、泣いていた。
ほどなくして、姉は仕事の為、実家を後にした。母は今まで以上に私に気を使ってくれた。そのあたりから、私の「儀式」は始まった。もう、親や姉を悲しませたくない。元気なふりをしてみたものの、やっぱり学校へは行けない。外へ出ようとするとお腹が痛くなった。それでも、学校までなんとかむかう。しかし、校門までがやっとだった。吐いてしまうのだ。
体が言うことを聞いてくれない。そんなジレンマから一時でも解放された気分になるのがリストカットだった。もう、誰も悲しませたくない。自分は自分以外の人を不幸にしてしまう。頭がいっぱいになる。そこで人に気付かれない部分、左腕の内側をカミソリで切るようになった。
血液が流れる。痛みを感じる。
なんだか、自分の中のモヤモヤが外にでていく感じがした。
切ると数日はその傷をみて落ち着く。傷が治ってくるとまた切る。このくり返しだった。
学校へは行けないものの、少しなら外へ出られるようになった。友人に会いに行く。好きな本を読む、テレビをみる。ゆっくり時間が流れて行った。
しかし、雨がふると駄目だった。レイプ後、解放された時、雨だったため、その時の記憶がフラッシュバックする。涙はでない。あの時と同じように私は人形になった。
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