明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「なにかと?」


少し困ったような表情を見せる彼に首を傾げる。


「いや、なんでもない」


彼が言葉を濁してしまったので、その先を聞くことができなかった。



その日、緊張のあまり食事中に何度も箸を落とすと、隣に並んで座っていた彼はクスクス笑いながら、私の膳の料理に手を伸ばす。

足りないのかしら?と思って見ていると、彼が黒豆の煮物をつかんで私の口の前に差し出してくる。


「ほら、口を開けて」
「いえっ、自分で」
「そうは言っても、さっきから全然食べ進んでいないぞ?」


たしかに、箸を落とすやらボーッとするやらで、なかなか食べられない。


「そうですけど、旦那さまにそんなことは……」
「旦那だからできるんだ。他の男にさせたら許さない」


彼はニヤッと笑い「ほら」ともう一度急かすので、小さく口を開いた。


「どう?」
「おいしい、です」


これじゃあますます緊張するじゃない。
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