明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
彼がこんな言葉を囁く人だとは知らなかった。

どうにも逃げられそうにないと観念した私は、そのまま食事を食べさせてもらった。



そして湯浴びをしたあと、いよいよ……。


「あや、さっきからなにをしている。入っておいで」


決心がつかず彼の部屋の前でしばらく立ち尽くしていたが、どうやら気づかれていたようだ。


「は、はい……」


今日は彼の浴衣に合わせて作ってもらった、古代紫色の浴衣を纏ってきた。

障子を閉め正座していると、彼の方が立ち上がり私のところにやってくる。


「緊張しているのか?」
「は、はい……。心臓が破れそうです」


正直に答えると、彼は私の手を取り自分の浴衣の襟元を少しはだけて胸に押し付ける。

素肌に触れたのは初めてではないが、トクンと心臓が音を立てる。


「鼓動が速いのがわかる? 俺も破れそうだ」


行基さんも?


「なにも心配しなくていい。お前は俺に愛されていればいい」
「……はい」
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