明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「はい」
「いつも主人がお世話になっていますようで」


声をかけたはいいが、こんなときなんと言えばよいのかわからず、当たり障りのないことを口にする。

すると彼女は一瞬顔をしかめた。
しかし、すぐに笑顔を取り戻して丁寧に頭を下げてくれる。


「いえ。行基さんの奥さまがこんなにきれいな方だなんて」


彼女の声は高く澄んでいる。

艶やかな着物を纏い、背筋をスッと伸ばして歩く様が初子さんの姿と重なり、良家のご令嬢か奥さまなのだと感じた。


「とんでもございません。私、あやと申します。失礼ですが……」


「ご挨拶が遅れました。大村章子(おおむらあきこ)です。行基さんからお聞きになっているかと思っておりましたので」


なぜかそのひと言に胸がチクンと痛む。


どうして彼は教えてくれなかったんだろう。
いや、特に今お付き合いがないのなら私が知る必要もないか。


「行基さんとは幼なじみでして。ずっとお慕いしておりました。彼もかわいがってくださって」
< 209 / 332 >

この作品をシェア

pagetop