明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
どうしてだろう。初めて見かけたあの日から、胸騒ぎが止まらない。


「はい、行基さんが妹さんのようだと言っておりました」


私がそう返すと、彼女の顔がピリッと引き締まったような気がした。


「行基さんのことは、今でもお慕いしております。奥さまに負けないほどに」
「えっ……」
「失礼します」


章子さんはなぜか挑発的な態度で意味深な発言を残し、そそくさと去っていく。

『今でも』って……。
もしかして、兄妹として慕っているのではなく、男女の間に芽生える気持ちを抱いているということ? 
行基さんもそうなの?


ううん、そんなわけがない。
彼は私に『愛している』と囁いてくれた。

だけど……。彼との縁談が持ち上がったとき『俺は、きみを愛せないかもしれない』とはっきり口にした。

そのときはまだ、章子さんのことを好きだった、とか? 
だから、爵位を持つ一橋家のうしろ盾が欲しくて結婚したとしても、心まではやらないよと念を押したのかも。
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