明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
シャツを受け取ったあと、いつも懸命に働いてくれる女中たちへのお土産にお団子を買って帰ろうと思っていたのに、それすら忘れてしまった。

自分の部屋へと戻り舞踊の稽古をしようと思ったが、一度座り込んだら立ち上がる気力がない。


「行基、さん……」


震えそうになる体を自分で抱きしめ、彼の名を口にする。


「彼の妻は私なの」


ふたりの間にどんな感情があろうとも、妻は私。

だけど……。実母のことをぼんやりと考えてしまう。


一橋の父と生みの母がもし本気で恋に落ちたのだとしたら、一橋の母が私を疎ましく思う気持ちが痛いほどよくわかる。

こんなことで一橋の母の気持ちを理解するなんて皮肉だ。

今でこそ少なくなったとはいえ、少し前までは妾という存在は珍しくはなかったようだし、おそらく妻がありながら他に女性がいることを、父もさほど悪いことだとは思っていなかったはずだ。
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