明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
彼のためになにができるのか、どうしたら喜んでもらえるのか。
そんなことばかり考えている。

しかし、それが嫌なわけではなく、むしろ楽しい。
行基さんが私に笑いかけてくれるのが、たまらなくうれしいのだ。


『行基さん、愛しています』


もう口に出してはいけない言葉を心の中で叫びながら舞い続ける。

誰も見てはいないけれど、心を込めて丁寧に。
そこに、笑顔の行基さんがいることを想像して。

やがて最後の動作が終わったとき、我慢しきれなくなった涙がスーッと頬を伝った。


部屋の真ん中に正座をして、頭を下げる。


「ありがとうございました」


そして彼への感謝の気持ちを込め、お礼を口にした。


最低限の着替えと初子さんにもらったつげの櫛。
それから……銀の懐中時計を風呂敷に包む。

今朝も『好きです』と唱えながらねじを巻いた時計。
この先もずっと幸せな時間を刻み続けるはずだと信じて疑わなかったのに。
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