明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
他には、いつもよく働いてくれる女中たちに差し入れがしたいからと預かっていたお金から壱圓だけ手にして、家を飛び出した。

もう、戻らないつもりだった。


どう考えても、私が身を引くのが一番いい方法だ。

そうすれば、行基さんと章子さんは結婚できる。
子も、妾腹の子と冷やかされることもないだろう。


行基さんは私に『愛してる』と囁いてくれた。
でも、きっと章子さんのことも愛するだろう。

かつて愛し、引き裂かれた人ならなおさらだ。


彼はとびきり優しい人だ。
生まれてくる子をないがしろになどできないし、むしろかわいがるはずだ。


どこに行くあてもなく歩き続ける。
今朝玄関を出るまではあんなに幸せだったのに、たった数時間でこれほどまでに状況が変化してしまった。
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