明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
行基さんにそろえてもらったものの中で地味なものを選んで数枚持ってきたのだが、それでも高級品だ。

お給料がいただけたら、安い着物を購入しよう。
行基さんにあつらえてもらった物を汚すのは忍びない。

ことあるごとに行基さんのことを思い出してしまい、そのたびにため息が出る。

だけど、彼との楽しい日々はもう過去の話だ。
くよくよしていないで、強く生きていかなくちゃ。

何度も自分を戒め、行基さんのことを頭から追い出した。



貸本屋の仕事は、それはそれは楽しかった。

そもそも大好きな書物に埋もれていられるという最高の労働環境の上、お客さんとの小説談義や、時間が空いたときに好きなだけ読んでもいいという特権。

私にぴったりとしか言いようがない仕事だ。


「一橋さん、本当に熱心だね」


どうやら本が好きと聞き、私が女学校を出ていると思っていたらしい角田さんは、辞典を片手に読んでいる私を見て驚いていた。
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