明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「これでも随分読めるようになってきたんです。最初は一行読むのに十分かかったこともありました」


辞書を引くのもひと苦労で、そんな時期もあった。
されど、毎日の積み重ねはバカにできない。


「一橋さんのように熱心な人が増えると、もっと繁盛するんだけどね。はい、これ新刊。先に読んでいいよ」


彼が私に渡してくれたのは、先日発刊されたばかりの恋愛小説。


「わー、うれしい。ありがとうございます!」


うれしさのあまりガバッと頭を下げると、彼にクスクス笑われた。


そんな角田さんとの生活も、なんの支障もなく楽しんでいた。

店番が暇なときに部屋の掃除をして、食事を作るだけ。

津田家にいるときはなかなかさせてもらえなかった家事も、一橋家でずっとやっていたから体が覚えている。


「一橋さんの飯はうまいね。旦那は逃してもったいないことをしたと悔やんでるだろうな」


味噌汁をひと口食べた彼がそう言うので、箸が止まる。
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