明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
行基さんに作ってあげたかったな。
女中の仕事を取り上げてはいけないと言われてひかえたものの、やはり手料理を振る舞いたかった。


「一橋さん?」
「あっ、ごめんなさい。お口にあってよかったです」


行基さんのことを忘れようとすればするほど、夢にまで出てきてしまうようになる。

私の心はどうやらあきらめが悪いようだ。

ため息をつきそうになったので、慌てて笑顔を作った。



貸本屋で働き始めてから二十日ほどが経った。
忙しいものの、とても充実した日々を送れていると思う。


「いらっしゃいませ!」


お客さまが来るたびに笑顔で接客していたら、常連さんが増えてきたように感じる。


「今日も元気だね。この前のおすすめ、すごくよかったよ。他にもあったら教えて」

「もちろんです。こちらなんかどうでしょう?」


私がお客さんと話している様子を、角田さんが笑みを浮かべて見ている。
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