明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~

誰かがすすり泣くような声が聞こえてきてゆっくりと目を開くと、もう日が傾きかけている。


「もう泣くな。泣きたいのはお前じゃない。あやだ」


障子の向こうの縁側から行基さんの声が聞こえる。
誰と話しているの?


「行基さん?」


体を起こして尋ねると「入るよ」と声をかけられ了承した。


「あっ……」


するとそこには、行基さんと目を真っ赤にはらした章子さん、そして一ノ瀬さんまでもそろっていたので、慌てて浴衣の襟元を直す。


「あや。章子の謝罪を聞いてやってほしい」
「いえっ、そんな……」


行基さんの言葉に慌てる。
たしかに彼女のついた嘘でズタズタに傷ついたけれど、彼女も切羽詰まっていたのだから、もう許したい。


「ほら、章子」


行基さんに促され部屋に足を踏み入れた彼女は、正座した。

すると、あとのふたりも隣に正座をするので、私も慌てて座りなおした。
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