明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「津田紡績の頂点に君臨している男が、こんなことでアタフタしているなんて」

「お前だってそうだっただろ!」


たしかに、一ノ瀬さんも章子さんの陣痛が始まったときは、真っ青な顔をして倒れてしまわないか心配だった。


「そうでしたっけ?」


とぼける一ノ瀬さんは、章子さんから静子ちゃんを受けとり、抱き上げる。

彼は静子ちゃんがかわいくてたまらないらしく、『嫁にはやらない』と父親の顔全開だ。

血のつながりがないなんてとても思えないよき父親ぶりで、私たちは安心していた。


「ほら、かわいいでしょう。あっ、男には触らせませんけどね」


行基さんに静子ちゃんを自慢げに見せたくせに、すぐに背中を向ける一ノ瀬さんがおかしくて笑いがこみ上げてくる。

だけどそのとき……。


「あっ」
「あや、どうした?」
「陣痛、かも?」


実はさっきからなんとなくお腹が張っている気はしていたんだけど、少し強めの痛みが来た。
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