明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「珍しい方だねえ。それじゃあ、よーく見ておいてください。女が命をかけてあなたとの子を産むところを」


大きくうなずいた行基さんは、私の顔を覗き込む。


「ずっと一緒だ」
「行基さん、無理しないで。貞がいてくれるか……んんんん」


こんなときは母に手伝いを頼むのが普通だが、一橋の母にはどうしても頼めなかった。
その代わり、貞が手伝ってくれる。


「なにが無理なんだ。お俺とあやの子なんだぞ」


彼がそう言ってくれたとき、これほどまでに優しい彼に出会えたことを改めて神様に感謝した。


「息を吸って」


それからはよく覚えていない。
産婆さんの言う通りに必死に何度もいきんでいると……。


「あぁぁっ、痛ーい。んんんっ!」
「出てきましたよ。おめでとうございます」


とうとう赤ちゃんが産まれてきた。
しかし、泣き声を上げてくれない。


「喉が詰まって……」
「えっ……。嫌っ、嫌よ!」


息をしていないの? そんなの、嫌……。
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