明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
一橋家の女中として外出しているときは、上流階級の人のことなんてあまり目に入らなかった。

まったく関係がない人たちだと思っていたからだ。

でも、この恰好をしているだけで気になりだすから不思議だった。


「おしとやかにって、どうすればいい?」


実母のことを知るまでは、初子さんと同じように行儀については口うるさく注意され、失敗すると容赦なく叩かれた。

だけどそれは、まだ交友関係も少なかった尋常小学校の頃だったので、家の中に関することばかりで、外に出たときの作法がわからない。

とりあえず、初子さんの歩幅が自分より狭いことだけは自覚していたので、そうしてみることにした。

つげの櫛に合わせ、桜色の着物を用意してくれた初子さんは、今頃周防さんに会えただろうか。

ふたりきりのところを見られたらまずいので、どこか人目につかないところで話をすると言っていたけど……。

私はそんなことを考えながら、夜になるとアーク灯がともる大きな橋のたもとで、ひたすら視線をキョロキョロさせていた。
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