明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
私は店主の作業をたっぷりと観察したあと、移動した。

次に目に入ったのは籠屋さんだ。
ここでは一度籠を買ったことがある。

けれどもそのときは時間がなくて、すぐに帰ってしまった。

今日はまだ時間があるので、店主が見事な手つきで籠を編んでいく様子をじっと見つめる。


「いらっしゃい」
「あっ、ごめんなさい。客じゃないんです。おじさんが編んでいくのが速くてびっくりして」


客ではないと言ったのに、店主は嫌な顔をせず対応してくれる。


「もう慣れてるからね。やってみるかい?」
「いいんですか!」


うれしくて声が上ずる。

それから手ほどきを受け、少しだけ編ませてもらった。


「なかなかうまいじゃないか。だけど、きれいな着物を着たお嬢さんが、こんなことに興味を持つなんて珍しいねぇ」


しまった。
初子さんの代わりをしていることなんて、すっかり頭から飛んでいた。


「あはは。おじさん、ありがとう!」


私は曖昧に笑ってごまかし、店を飛び出した。
< 5 / 332 >

この作品をシェア

pagetop