明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
行基さんは帰るために玄関に向かう途中で、柱の陰に隠れていた私に気づき、一瞬だけ目があってしまった。

すると彼は、ハッとしたような顔をして足を止めたものの、なにかをあきらめたような表情になり再び足を進め、帰ってしまった。


「初子さん……」


部屋に戻った初子さんに寄り添い、声をかけたが反応がない。


「行基さん、とってもいい人そうじゃない。大丈夫よ」


なぜか彼に会ったことがあることは隠しておきたくて、それだけ伝える。


「いい人だったとしても愛してはいないわ。心を注げないなんて、行基さんにも失礼よ」


そのあとの初子さんの言葉に、私は顔がゆがむのを感じた。



祝言が決まり、初子さんのための打掛が用意された。

艶やかな朱色の生地に、何羽もの鶴が刺繍されているそれは、とても華やかで見ているだけでうっとりするような高級品。

父の散財のせいで祝言の支度もまともにできない一橋家だったが、大富豪である津田家がすべて面倒を見てくれたのだとか。
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