明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
無理やり持たせたものの、初子さんは口をつけようとはしない。

まともに食べていないせいか、頬がこけている姿が痛々しい。


「あや……。私……死んでしまいたい」
「なにを言っているの? 絶対にダメ。行基さんはいいお方よ。お願い、幸せになって」


初子さんの言葉に動揺を隠せない私は、思わず彼女の肩をつかみ揺さぶる。

お願いだから、希望は捨てないで。
本当に素敵な人なの。

私があの人に嫁ぎたいくらい——。

ふとそんな考えが頭をよぎり、ハッとする。

もしかしてこの前感じたもやもやはの原因はこれ? 

そんなわけ、ない。私は初子さんに幸せになってほしいの。
私は自分の考えを必死に否定する。


「どうして一橋の家に生まれたのかしら……」


何度もそう繰り返し、静かに涙を流す初子さんになにも言えない。

没落しつつある一橋家だけど、初子さんは女学校に通うことができた。

行きたくてもいけない人から見れば、それはとてつもなく幸福なことなのかもしれない。
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