“幸せ”だって無くして気がついた 馬鹿な僕だから
カルテに目を通していくと、これまでのカウンセリング内容、処方した薬。
野崎が彼女と一緒に向き合っていた、
【性同一性障害】
の治療の記録が克明に残されていた。
「・・・・・佐々木は・・・・。」
「身体的に・・佐々木さんは“女性”です。
ですがあの子の心は、気持ちは、
アイデンティティは・・“男性”です。」
「・・・そうでしたか・・・・。」
さっきから必死に涙を堪えていた野崎だったけど、
我慢しきれなくなったのか、
嗚咽を漏らし始めた。
「先生、ご自分を責めないでください。
それとこれとは話が別です。」
「小西さん・・。
あの子はどうしてこんな事をしたんですか?
本当に遺族の人達の為になんですか?
それとも・・・・。」
「本人の取り調べはまだ続いていますが、
これだけははっきりしています。
佐々木と同じ障害で戦っている人達は世界中にたくさんいて、
様々な困難と向き合いながらも、
みんな懸命に生きている。
佐々木はたまたまそこから道を外れただけで、今回の件と結びつけるのは・・
彼女の殺人を“止められなかった”なんて思ってるならそれは筋違いですよ。
あなたは何一つ間違っていない。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」