Piano~ピアノ~
Piano:どうすればいいんだろ?
***
大学時代はバイトとバンドと勉強の掛け持ちで、忙しかった記憶しかない。まさやんは理工学部、俺は経済学部でそれぞれ頑張っていた。
まさやんは器用に三足のワラジを履きこなして、有意義な大学ライフを謳歌しているのに比べ、俺は大学をサボってばかりで、バンドとバイトばかりをやっていた。そのツケが年末、クリスマスプレゼントとして教授からごっそりと渡される。
「他の学生は3種類のレポートだが、君は7種類ね」
〆切クリスマスまでと言い渡される(明らかにワザとだよ)
稼ぎ時の年末が、このレポート作業でパーである。全て自分が悪いの分かっているだけに、んもぅ後の祭り……。
資料を抱えて、行きつけのコーヒーショップに行く。
中学高校時代ならまさやんに泣きついてたトコだが、学部が違うだけに無理な話。バンドの先輩方にバレたら、間違いなく袋叩きにあうだろう。
半泣きになりながら、格闘すること1時間。正直一向に進んでなかった。
そんな俺のテーブルに、何か飲み物が置かれる。
「あの、頼んでませんが……?」
置いてくれたウェートレスに言うと、その人は柔らかくほほ笑んできた。
「難しい顔して考えてばかりいても進まないわよ。甘い物でも飲んで、リラックスしないとね」
俺の顔をじっと見つめて指摘されてもな。しかもこんなことをしてもらう義理はない――それに甘い物は苦手なのだ。
「申し訳ないですが、甘い物はちょっと苦手なんです」
細身の体をしたウェートレスがわざわざ俺の手元を覗き込み、目を細めながら苦笑いをする。
「理工学部の、谷村直樹教授からの宿題でしょ?」
寸分違いもなく言い当てられたその台詞に驚いて、声を出せなかった。
「私も理工学部だったの。アナタと同じように目をつけられて、レポートを提出したわ」
そう言って資料とペンを手に取ると、何かを書き込み始めた。
ポカーンとしながら、その状況を見つめることしかできない。ウェートレスの胸元に付いてる名札を見ると(中林)と書いてあった。
切れ長の目元に通った鼻筋、さくらんぼのような綺麗な色した唇――整った顔立ちを彩るかのような、見るからに柔らかそうで、サラサラな黒髪が印象的だった。身長は女性にしたら少し高めの、165センチ前後な感じ。
ぼーっと見つめていると、中林さんがこっちを見た。キレイな瞳とバッチリあったせいで、急にドギマギする不審な俺に、資料を手渡してくれる。
「線を引いた箇所を中心に調べてまとめれば、それなりのレポートが仕上がるはずだから。しっかり頑張りなさい、泣き虫くん」
笑いながら言って、持ってきた飲み物を下げようとした。その手を思わず掴んで、強引に引き止める。
「折角作ってくれたんですから、飲みます……」
「そのココア、甘さは控え目にしてあるから。いつもコーヒーはブラックでしょ?」
「よくコーヒーがブラックっていうの、ご存知なんですね?」
俺の手を振り解き、去って行こうとする彼女に声をかけた。
「髪の長いお友達と一緒によく、ウチに来てるでしょ。アナタ達、特に目立ってるから」
フッと微笑みながら、その場を後にする。髪の長いお友達はまさやん。ライブの練習前によく立ち寄って、話し込んだりしているのだ。
カウンターを見ると、接客している彼女が見えた。優しいほほ笑みが荒んでいた気持ちを和ませていく――明るい声での応対を見ているだけで、胸がドキドキした。
彼女のお陰で、期日内にレポートは完成したので、後日きっちりとお礼を言ったのだが――
「いつも来店して戴いてるお礼ですから」
素っ気ない一言で終了したのである。俺としてはもっと盛り上がりたかったというのに、肩透かしを食らった気がしてならなかった。
大学時代はバイトとバンドと勉強の掛け持ちで、忙しかった記憶しかない。まさやんは理工学部、俺は経済学部でそれぞれ頑張っていた。
まさやんは器用に三足のワラジを履きこなして、有意義な大学ライフを謳歌しているのに比べ、俺は大学をサボってばかりで、バンドとバイトばかりをやっていた。そのツケが年末、クリスマスプレゼントとして教授からごっそりと渡される。
「他の学生は3種類のレポートだが、君は7種類ね」
〆切クリスマスまでと言い渡される(明らかにワザとだよ)
稼ぎ時の年末が、このレポート作業でパーである。全て自分が悪いの分かっているだけに、んもぅ後の祭り……。
資料を抱えて、行きつけのコーヒーショップに行く。
中学高校時代ならまさやんに泣きついてたトコだが、学部が違うだけに無理な話。バンドの先輩方にバレたら、間違いなく袋叩きにあうだろう。
半泣きになりながら、格闘すること1時間。正直一向に進んでなかった。
そんな俺のテーブルに、何か飲み物が置かれる。
「あの、頼んでませんが……?」
置いてくれたウェートレスに言うと、その人は柔らかくほほ笑んできた。
「難しい顔して考えてばかりいても進まないわよ。甘い物でも飲んで、リラックスしないとね」
俺の顔をじっと見つめて指摘されてもな。しかもこんなことをしてもらう義理はない――それに甘い物は苦手なのだ。
「申し訳ないですが、甘い物はちょっと苦手なんです」
細身の体をしたウェートレスがわざわざ俺の手元を覗き込み、目を細めながら苦笑いをする。
「理工学部の、谷村直樹教授からの宿題でしょ?」
寸分違いもなく言い当てられたその台詞に驚いて、声を出せなかった。
「私も理工学部だったの。アナタと同じように目をつけられて、レポートを提出したわ」
そう言って資料とペンを手に取ると、何かを書き込み始めた。
ポカーンとしながら、その状況を見つめることしかできない。ウェートレスの胸元に付いてる名札を見ると(中林)と書いてあった。
切れ長の目元に通った鼻筋、さくらんぼのような綺麗な色した唇――整った顔立ちを彩るかのような、見るからに柔らかそうで、サラサラな黒髪が印象的だった。身長は女性にしたら少し高めの、165センチ前後な感じ。
ぼーっと見つめていると、中林さんがこっちを見た。キレイな瞳とバッチリあったせいで、急にドギマギする不審な俺に、資料を手渡してくれる。
「線を引いた箇所を中心に調べてまとめれば、それなりのレポートが仕上がるはずだから。しっかり頑張りなさい、泣き虫くん」
笑いながら言って、持ってきた飲み物を下げようとした。その手を思わず掴んで、強引に引き止める。
「折角作ってくれたんですから、飲みます……」
「そのココア、甘さは控え目にしてあるから。いつもコーヒーはブラックでしょ?」
「よくコーヒーがブラックっていうの、ご存知なんですね?」
俺の手を振り解き、去って行こうとする彼女に声をかけた。
「髪の長いお友達と一緒によく、ウチに来てるでしょ。アナタ達、特に目立ってるから」
フッと微笑みながら、その場を後にする。髪の長いお友達はまさやん。ライブの練習前によく立ち寄って、話し込んだりしているのだ。
カウンターを見ると、接客している彼女が見えた。優しいほほ笑みが荒んでいた気持ちを和ませていく――明るい声での応対を見ているだけで、胸がドキドキした。
彼女のお陰で、期日内にレポートは完成したので、後日きっちりとお礼を言ったのだが――
「いつも来店して戴いてるお礼ですから」
素っ気ない一言で終了したのである。俺としてはもっと盛り上がりたかったというのに、肩透かしを食らった気がしてならなかった。
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