Piano~ピアノ~
Piano:好きになってもらいたい!⑤
***
結局ギリギリの時間に、叶さんのお店に到着した。早めに行っていらない妄想にとり憑かれ醜態を晒すのが、目に見えていたからである。
店内はもう閉店準備をしているらしく、中は真っ暗だった。
叶さんと会うのはライブハウス以来だった。メールで一方的にアクセスしていたからとはいえ、やはり緊張する。やっぱ第一声は挨拶からだよな。
その後はメールでお礼はしたけど、ライブに来てくれたことを直接お礼言った方がいいだろう(今更な話なんだけど)
それから……
「ごめん、待たせたわね」
お店の鍵を手に持っている叶さんの姿。俺に声を掛けつつ、手早くk鍵を閉めていた。
「こっ、こんばんわっ」
まさやんのボディブローを思い出せ、落ち着け俺……。今日も(いつもだけど)素敵な叶さんの姿を見ただけで、どうにも落ち着けない。顔の筋肉を引き締めなければ、キリリッ!
「あのっ、この間はライブに来てくれて、有難うございました。お陰でいい演奏ができました」
本当はライブ終了後に言わなきゃならなかった言葉。叶さんの名前を聞いただけで、すっかりと忘れた上に、自分の名前も名乗っていなかったというお恥ずかしい失態ばかりしていた。
いろんな意味でホント、顔を上げられません。
「こちらこそ楽しませてもらったから。行こうか」
そう言って俺の腕に自分の右腕を絡めて、ゆっくりと歩き出す。突然の出来事に、引っ張られるようにして歩く俺。
「かっ、叶さん?」
「しゃんとして、私の彼氏なんだから!」
上目遣いでギロリと睨まれる。慌てて姿勢を正して、叶さんをリードすべく歩いた。
(彼氏……いい響きだなぁ)
ポワーンとしかけた瞬間、叶さんが話出す。
「あの男につけられてるの、三日前くらいから」
「あの男って?」
「イブにプレゼントを渡そうとした、しつこいリーマン」
「ええっ!? あれで諦めたんじゃなかったんだ」
「まったく! ケツの穴小さい男がやることだから、ある程度は目をつぶってたのに。今度はストーカーになるなんて」
俺も同類な男です、すみません。←こっそり謝る
叶さんは、かなり憤慨していた。
「ああ。だからあのとき、彼氏に見立てた俺を呼んだんですね」
「そういうこと。ひとりでいたら、襲われる可能性だってあるんだし」
「叶さんさえ良ければ、しばらく一緒に帰りますよ。だって心配だから……」
俺の提案に、難しい表情でしばらく考えていた。
「それとも一緒に帰る人がいる、とか……?」
「それはない」
即答! よっしゃ、叶さんに恋人はいない。
心でガッツポーズを取りつつ、何かを考え込んでいる叶さんの顔色を窺う。
そういや背に腹は代えられないって、メールで書いてあったよな。渋々俺と恋人ごっこしているんだし、期間限定とはいえ一緒に帰るのが嫌なのかも。
ずずーんと凹みかけた俺を見上げながら、叶さんがやっと口を開く。
「毎回お店ってわけじゃないし、本社だともっと時間が遅くなるかもしれない。それでも頼んで大丈夫?」
「事前に場所と時間が分かれば調整は可能です。大丈夫ですよ」
少しでも叶さんの傍にいたい、こんな俺でも役に立ちたい――
「有難う、賢一くん」
照れたように笑う叶さんに、俺はもうメロメロ。しかも名前、くん付けで呼んでくれたよ。どうしよう。たったこんなひとことで一喜一憂できるこの状況が、ずっと続かないかなぁ。
「で、授業で分からない所があるっていうのは、嘘なんでしょ?」
「へっ!?」
「提出したレポート、半分は予習みたいなものでしょ。レポートができているのなら、授業に出て理解できてないと正直おかしいよね」
サックリと痛いトコをついてくる、ああ全てお見通し。やっぱり、叶さんには敵わない――
「うう……。理解ができてますぅ」
「私だって、同じように学生時代にレポート提出しているから知ってるの。馬鹿!」
そう言って、俺の頭をガシガシ撫でる。
「うち何もないけど、お茶くらい出してあげる。飲んでから帰りなさい」
「はいっ!」
「その代わり、変なコトしようとしたら追い出すからね」
ギロリと睨む、叶さんの視線がイタイ。
「もっ勿論です、変なコトしません……」
これを言うのが、やっとの俺だった。
叶さんの家にあがれるだけでかなり興奮しているのに、二人きりの空間。俺、悶え死ぬかもしれない。
結局ギリギリの時間に、叶さんのお店に到着した。早めに行っていらない妄想にとり憑かれ醜態を晒すのが、目に見えていたからである。
店内はもう閉店準備をしているらしく、中は真っ暗だった。
叶さんと会うのはライブハウス以来だった。メールで一方的にアクセスしていたからとはいえ、やはり緊張する。やっぱ第一声は挨拶からだよな。
その後はメールでお礼はしたけど、ライブに来てくれたことを直接お礼言った方がいいだろう(今更な話なんだけど)
それから……
「ごめん、待たせたわね」
お店の鍵を手に持っている叶さんの姿。俺に声を掛けつつ、手早くk鍵を閉めていた。
「こっ、こんばんわっ」
まさやんのボディブローを思い出せ、落ち着け俺……。今日も(いつもだけど)素敵な叶さんの姿を見ただけで、どうにも落ち着けない。顔の筋肉を引き締めなければ、キリリッ!
「あのっ、この間はライブに来てくれて、有難うございました。お陰でいい演奏ができました」
本当はライブ終了後に言わなきゃならなかった言葉。叶さんの名前を聞いただけで、すっかりと忘れた上に、自分の名前も名乗っていなかったというお恥ずかしい失態ばかりしていた。
いろんな意味でホント、顔を上げられません。
「こちらこそ楽しませてもらったから。行こうか」
そう言って俺の腕に自分の右腕を絡めて、ゆっくりと歩き出す。突然の出来事に、引っ張られるようにして歩く俺。
「かっ、叶さん?」
「しゃんとして、私の彼氏なんだから!」
上目遣いでギロリと睨まれる。慌てて姿勢を正して、叶さんをリードすべく歩いた。
(彼氏……いい響きだなぁ)
ポワーンとしかけた瞬間、叶さんが話出す。
「あの男につけられてるの、三日前くらいから」
「あの男って?」
「イブにプレゼントを渡そうとした、しつこいリーマン」
「ええっ!? あれで諦めたんじゃなかったんだ」
「まったく! ケツの穴小さい男がやることだから、ある程度は目をつぶってたのに。今度はストーカーになるなんて」
俺も同類な男です、すみません。←こっそり謝る
叶さんは、かなり憤慨していた。
「ああ。だからあのとき、彼氏に見立てた俺を呼んだんですね」
「そういうこと。ひとりでいたら、襲われる可能性だってあるんだし」
「叶さんさえ良ければ、しばらく一緒に帰りますよ。だって心配だから……」
俺の提案に、難しい表情でしばらく考えていた。
「それとも一緒に帰る人がいる、とか……?」
「それはない」
即答! よっしゃ、叶さんに恋人はいない。
心でガッツポーズを取りつつ、何かを考え込んでいる叶さんの顔色を窺う。
そういや背に腹は代えられないって、メールで書いてあったよな。渋々俺と恋人ごっこしているんだし、期間限定とはいえ一緒に帰るのが嫌なのかも。
ずずーんと凹みかけた俺を見上げながら、叶さんがやっと口を開く。
「毎回お店ってわけじゃないし、本社だともっと時間が遅くなるかもしれない。それでも頼んで大丈夫?」
「事前に場所と時間が分かれば調整は可能です。大丈夫ですよ」
少しでも叶さんの傍にいたい、こんな俺でも役に立ちたい――
「有難う、賢一くん」
照れたように笑う叶さんに、俺はもうメロメロ。しかも名前、くん付けで呼んでくれたよ。どうしよう。たったこんなひとことで一喜一憂できるこの状況が、ずっと続かないかなぁ。
「で、授業で分からない所があるっていうのは、嘘なんでしょ?」
「へっ!?」
「提出したレポート、半分は予習みたいなものでしょ。レポートができているのなら、授業に出て理解できてないと正直おかしいよね」
サックリと痛いトコをついてくる、ああ全てお見通し。やっぱり、叶さんには敵わない――
「うう……。理解ができてますぅ」
「私だって、同じように学生時代にレポート提出しているから知ってるの。馬鹿!」
そう言って、俺の頭をガシガシ撫でる。
「うち何もないけど、お茶くらい出してあげる。飲んでから帰りなさい」
「はいっ!」
「その代わり、変なコトしようとしたら追い出すからね」
ギロリと睨む、叶さんの視線がイタイ。
「もっ勿論です、変なコトしません……」
これを言うのが、やっとの俺だった。
叶さんの家にあがれるだけでかなり興奮しているのに、二人きりの空間。俺、悶え死ぬかもしれない。