Piano~ピアノ~
Piano:好きになってもらいたい!②
***

 そしてライブ当日午前中、張り切って美容室に行き、長かった髪をバッサリとカットしてもらった。こういう髪型にするのは初めてだったので、違和感が拭えない。

 カットしてくれた美容師さんも、

「長いより短い方が、お顔がすっきりしてていいと思いますよ」

 なんて誉めらてくれた。中林さんも、気に入ってくれるだろうか――ドキドキしながら、ライブハウスに向かう。

「けん坊って、短髪の方が似合ってたんだな。さすが年上、伊達に年くってないわ」

 俺を見た、まさやんの開口一番である。何かにつけて、どうしてか年上を非難することを忘れない。

 中林さんのこともあるが、卒業していく先輩方をしっかり送り出すライブ。勿論、気合いは充分である!

「まさやん今日は全力で頑張るから、お互い悔いを残さないように弾けようぜ!」

「よし、全力で盛り上げよう! 俺達が楽しまないとお客もノれないからな」

 お互いの背中を、渾身の力を込めて叩き合う。昔からの気合いの入れ方なのだ。

 先輩方はもうステージにあがり、最後の挨拶をしていた。挨拶が終わったら俺らの出番。

 いざ出陣!

 まさやんの「イクぜ、お前ら」を合図に、派手なドラムソロから始まる。

 視線を客席から感じて遠くを見てみると、後方の席から中林さんが足を組んでじっとこちらを見ていた。体にいらない力が入る。

 中林さんを意識しただけで顔が熱くなり、心臓が破裂しそうな程にバクバクしてきた。

 ――どうしよう、体が思うように動かない……。

 挙動不審な俺を見たまさやんは、わざわざ近づいてきて、俺の顎を強引に持ち上げる。何が始まるんだろうと顔を引きつらせたら。

「今夜、俺の愛でお前を狂わせたい……」

 客席から「キャー」と言う悲鳴が聞こえた。
 (o≧∇≦)o(o≧∇≦)o

 そして客からは見えないように、俺の腹にボディブローをお見舞いした。

「いつも通りの演奏をしろ、大丈夫だ、落ち着け!」

 痛みを堪えている俺に、こっそり助言をしてくれたまさやん。持つべきものは、やっぱドSな幼馴染……。

 その優しさを噛み締めながら、お陰でしっかりと演奏ができた。

 ライブ終了後、急いで観客席に行く。中林さんがそのまま、座って待っていてくれた。

「あのぅ、どうでしたか?」
 
 恐る恐る聞く。もう心臓が口から飛び出してきそうな勢いで、ドキドキしまくってるよ。

「願いが叶うのかなえ、口に漢数字の十」

「へっ!?」

「ライブ良かったわよ、見ていて楽しかった」

 ふんわりと俺に向かって微笑んでくれた。愛しいその笑顔を見た瞬間、思わず抱きついてしまう。

 叶さんはそんな俺の頭を、思いっきりグーで殴りつけてきた。結構痛い……。

「こっちは名乗ってるのに、アナタはどこの誰ですか?」

 ムッとしたご様子の叶さん。俺ってばずっと、名前教えるの忘れてた!

「やっ、山田賢一っていいます。賢一の賢は賢いっていう漢字で、一は漢数字の一です……」

「名は体を表すものなのに、全く賢さが現れてないね」

 おどおどしながら伝えると、まさやん並みにザックリな事を言いながら俺の目の前に、紙切れ一枚を渡してきた。

「今日のライブのご褒美。しょうがないからメアド、教えてあげる」

「有り難うございます!」

 思いがけないプレゼントだ――

 もらった紙を、思わず抱き締めてしまった。

「この後用事があるから、もう行くね」

 そう言い残し、ライブハウスをあとにした叶さんの後ろ姿を見送る。

 名前だけじゃなく、メアドもGET! これって、期待してもいいのかな――?
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